ブルーナが死んだ朝、ぼくには店が必要だとわかった。
ミッフィーの生みの親として知られるディック・ブルーナが亡くなった日、
ぼくは転職のはざまで自分の勤める店がなかった。
入店間もない4月後半、熊本で大きな地震があった。
震災が起きているなか何もなかったかのように過ごさねばならない
もやもやした気持ちに前の震災のことが思い出された。
ちょうどその頃、『災害支援手帖』(荻上チキ、木楽舎)という本が
出版されるタイミングだった。定価の付いた本だったにも関わらず、
著者の意向から、出版社はその内容をウェブ上で全文公開した。
(2017年7月31日時点でも公開中)
本屋にいるぼくができることは、
この本のことをわずかでも知ってもらうことだと思った。
店長に相談してわずかながら話題書の棚に積んでくれた。
それまで1年弱、本屋に勤めていたなかで、
本屋という仕事は、時事的な事柄を
お店の棚に、取り込むことができることを知った。
ブルーナが死んだ朝、ぼくはもし自分の店を持っていたら、
間違いなく目立つところにブルーナの本をおいたと思う。
それは世の中の事象を利用して、商売をすることでもある。
見方によっては気分のいいものでもない。
でも、思いを馳せることのそのさきに、そのゆかりの
あるものに触れることで、思いを共有することができるのではないかと。
もしお客さんがその本を、買わずとも手にとって、知ってもらえる
機会がつくれるだけでも、ぼくはきっとうれしいと思う。
写真:泣いているミッフィーのポストカード
東日本大震災の時にブルーナがその思いを込めてつくった
イラストをもとに、後にチャリティで作られた。
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